この記事はシリーズ記事です。
第1回 「一般廃棄物収集運搬業に貨物自動車運送事業法は当然に適用されるのか?」
第2回 「一般廃棄物収集運搬業に貨物自動車運送事業法は当然に適用されるのか?|国土交通省が示した「許可適用対象外」の条件を分析する」
第4回 「国土交通省が示した結論 ― 白トラ問題の公式整理」
第5回 「白トラ問題の誤解を解く|「廃棄物の処理(収集又は処分)」の正しい読み方【国土交通省文書解説】」
これまでの連載では、廃棄物収集運搬と貨物自動車運送事業法の関係について、制度面から整理してきました。
- 包括契約
- 一体的実施
- 密接不可分
- 付帯性
といった観点から、一定の場合には運送業許可は不要と整理されることを確認しています。
では逆に、 廃棄物収集運搬業者が運送業許可も取得しようと考えた場合、そのコストはどれくらい掛かるのでしょうか?
👉 青ナンバーが必要だとすると、年間でいくらの固定費が発生するのか?
今回は、その追加で必要となるコストを具体的に検証していきます。
1.前提条件(モデル設定)
以下の条件で試算します。
- トラック:5台(中型想定)を増車
※既存のパッカー車でも運送業許可取得は可能ですが、新たに運送部門を立ち上げるため、トラック5台を増車というイメージ - ドライバー:5名を雇用
- 一般貨物自動車運送事業として新規参入
- 営業所・車庫は既存施設を活用
2.年間コストの全体像
この条件での年間コストは、概ね次の水準になります。
👉 約4,000万〜5,900万円/年
この金額が意味するところは明確です。
👉 青ナンバー取得とは、単なる手続ではなく、会社の事業構造の転換が不可欠になる
3.コストの内訳と算出根拠
ここからは、各費目の考え方を具体的に見ていきます。
(1)人件費
試算:約2,400万円(中型運転者5人を雇用した場合)
5台運用の場合、最低でも運転者5名が必要です。
公益社団法人全日本トラック協会「2023年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」(令和5年5〜7月調査)によると、一般貨物自動車運送事業における男性運転者の年収(賃金+賞与月額換算)は以下のとおりです:
| 職種 | 賃金+賞与(月額) | 年収換算 |
| 大型運転者(男性) | 399,200円 | 約479万円 |
| 中型運転者(男性) | 335,400円 | 約403万円 |
| 準中型運転者(男性) | 344,300円 | 約413万円 |
| 【出典】公益社団法人 全日本トラック協会 「2023年度版 トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態(概要版)」第3表 https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/chinginjittai2023bassui.pdf |
中型運転者を想定した場合、1人あたり年収は約400〜420万円が実態に近い数値です。これに社会保険料(事業主負担:給与の約15〜16%)を加えると、企業負担は1人あたり約460〜490万円となり、5名分では約2,300〜2,450万円となります。
(2)車両関連費
試算:約900万〜1,500万円
中型トラックのリース・ローン負担を1台あたり月15万〜25万円と仮定すると、5台では年間900万〜1,500万円となります。
リース料金の相場については、業界各社の公開情報によれば新車中型トラックのファイナンスリースは月額12万円〜が下限とされています。メンテナンスリース(整備・車検込み)や年式・架装の違いにより上限は月25万円程度まで幅があります。
※リース料金は契約内容・期間・車両スペックにより大きく変動します。実際の導入にあたっては複数社から見積を取得されることをお勧めします。
(3)燃料費
試算:約375万〜625万円
燃料費は、
👉 走行距離 ÷ 燃費 × 軽油単価
で計算できます。
- 年間走行距離:3万〜5万km
- 燃費:4〜5km/L
- 軽油単価:125円/L(試算時点の参考値)
とすると、1台あたり
- 約75万〜125万円
5台では
👉 約375万〜625万円
となります。
(4)点検・整備・修繕費
試算:約250万〜500万円
事業用トラックは、
- 3か月ごとの定期点検
- 年次点検
が義務付けられています。
加えて、
- タイヤ交換
- 消耗品
- 故障修理
が発生するため、
👉 1台あたり年50万〜100万円
とすると、
👉 約250万〜500万円
となります。
(5)保険料
試算:約100万〜250万円
事業用車両(青ナンバー)の任意保険は、自家用車と比べて保険料が高額になります。
損害保険料率算出機構の統計(「自動車保険の概況」)によれば、事業用普通貨物車(4t相当)の任意保険料の統計的な水準は年額14万円前後とされていますが、これは最低限の基本補償のみの数値です。
実務上は積荷賠償保険(運送業者貨物賠償責任保険)の付帯が必要となるケースも多く、補償内容・積荷の種類・走行距離等によって保険料は大きく変動します。
そのため、1台あたり20万〜50万円の幅で試算しています。
| 【参考出典】損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」(最新版:2024年度版・2025年4月発行) https://www.giroj.or.jp/publication/outline_j/ ※用途・車種別の詳細統計は同資料第13表を参照 |
(6)管理コスト(運行管理・点呼等)
試算:約120万〜300万円
一般貨物自動車運送事業では、貨物自動車運送事業法に基づき以下の体制整備が義務付けられます。
- 運行管理者の選任(同法第18条)
- 乗務前後の点呼実施(同法第17条)
- 運転者台帳・乗務記録の作成・保存(運輸規則第9条の5等)
- 整備管理者の選任(道路運送車両法第50条)
5台規模であってもこれらの体制はフルで必要です。
運行管理上必須のツールとしては、
- 運行管理システム(クラウド型・5台)
- デジタコリース(5台)
- アルコールチェック管理(5名)
- 帳票・通信・消耗品
がありますが、これらのコストを合計すると、
- 兼務体制を前提とした最低限のシステムコストで月5〜10万円
- 専任管理者を置く場合は月20〜30万円超
のコスト負担が必要となります。
(7)許可取得費(初年度)
試算:約50万〜130万円
- 登録免許税:12万円
- 申請関連費用:40万〜120万円
(8)営業所・通信・雑費
試算:約30万〜60万円
既存施設を使う前提でも、
- 通信費
- 事務費
- 光熱費
は発生します。
👉 月2.5万〜5万円
→ 年間 約30万〜60万円
4.合計
以上を合算すると、運送業許可取得初年度は
👉 約4,000万〜5,900万円/年
となります。
5.この数字が意味すること
ここで重要なのは、単なる金額ではありません。
■ 青ナンバーは「ナンバーの色が変わるだけ」ではない
👉 人・車両・管理体制を含めた
👉 完全な運送業への転換
です。
■ 固定費が極めて重い
一度参入すると、
👉 稼働が落ちてもコストは下がらない
構造になります。
■ 管理コストは規模に比例して減らない
5台であっても、
- 運行管理者
- 点呼
- 記録
はフルで必要です。
6.経営として成立するのか
ここで、制度論から少し離れて、純粋に企業経営の観点から考えてみます。
廃棄物収集運搬業者が、運送事業部門を新設し、運送業にも参入した場合、
経営にはどのような影響が生じるでしょうか。
まず、本稿で見てきたとおり、5台規模であっても、
👉 年間4,000万〜5,900万円規模の固定費
👉 1台あたりならば、「年間800万〜1,180万円程度」
が発生します。
このコストは、
- ドライバー人件費
- 車両費
- 燃料費
- 保険料
- 運行管理・点呼等の管理コスト
といった、簡単には削減できない費用で構成されています。
そのため、事業として成立させるためには、
👉 安定的かつ継続的な運送収入
が不可欠となります。
しかし、廃棄物収集運搬業の実態は、
- 排出量の変動がある(特に産業廃棄物の場合は)
- スポット案件が多い
- 地域密着型で小口取引が多い
といった特徴を持っています。
このような収益構造のもとで、
👉 高額な固定費を前提とした運送業モデル
を導入すると、
- 稼働率が下がった瞬間に赤字化
- 人員欠員で事業が停止
- 燃料費高騰など外部要因の影響を直接受ける
といったリスクが顕在化します。
その結果として、
👉 利益が出にくい構造となり、経営の安定性を確保することが難しくなる
と考えられます。
以上を踏まえると、
👉
廃棄物収集運搬業者が今から運送事業に乗り出すことは、企業経営の観点からみて極めてハードルが高い
と言えるでしょう。
7.まとめ
今回の検証から言えることは明確です。
👉
青ナンバーの取得は、数千万円規模の固定費を伴う経営判断である
そしてもう一つ。
👉
今回の国土交通省の整理は、現実の事業運営に照らしても無理のない線で制度を捉え直したたものと評価できます。
国土交通省の整理は、
- 包括契約
- 一体的実施
- 密接不可分
- 付帯性
といった条件のもとで、
👉 廃棄物を収集運搬する際、運送業として独立性を有しない場合は、運送業の許可対象外
としたものです。
これは単なる解釈論ではなく、
👉 現実の事業構造と整合する整理
と理解するのが自然でしょう。
(補足)
本稿の数値はモデル試算です。
既存の人員や車両をそのまま活用する場合は、ドライバーの雇用人数や車両の増車数が少なくなりますので、総コストが大きく変わってきますが、それでも年間2千万程度の固定コスト増を覚悟する必要があります。
重要なことは金額の細部ではなく、
👉 この規模のコスト構造が発生するという事実
です。
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