「頭隠して尻隠さず」の構造分析|中央広域環境施設組合(徳島県)の委託費不正請求事件

2026年6月22日付JRT四国放送 「ごみ処理事業めぐり 運送業者を刑事告発【徳島】

実際には行っていない「トラックの改造費用」を阿波市のごみ処理組合に請求し、約2000万円を不正に受け取ったとして、県議らが6月22日、阿波市の運送会社を刑事告発しました。

(中略)

告発状によりますと、阿波市の運送会社「S社」は、ごみ処理事業を担う中央広域環境施設組合から、トラック荷台の床に腐食防止のステンレス板を張るなどの改造費用として2086万円を受け取り、改造の完了報告書を提出したにも関わらず、実際には改造していなかった詐欺の疑いがあるということです。

ありふれた公金の水増し請求の話に見えますが、この案件を丁寧に読み解いていくと、現在の地方ごみ行政が抱える構造問題が透けて見えてきます。

本稿では、この事件を廃棄物処理法と地方自治法の両面から読み解いてみます。

1. 報道の概要

報道によれば、事件の舞台は中央広域環境施設組合です。

この組合は阿波市・板野町・上板町という複数の自治体が、ごみ処理という一つの事務を共同で行うために設けた「一部事務組合」で、いわば自治体が出資し合ってつくる、目的限定の特別地方公共団体です。

この組合は現在、三市町で集めた家庭ごみを大型トラックに積み替え、山口県萩市の処理業者まで運んで処分してもらっています。

一部事務組合からその運搬業務を委託されたのが、阿波市の運送会社「S社」です。

2026年6月22日、徳島県議や板野町議ら4名が、このS社を詐欺の疑いで刑事告発しました。

告発の骨子は、運送会社がトラック荷台の腐食防止のためにステンレス板を張るなどの改造費として2,086万円を受け取り、完了報告書まで提出しておきながら、実際には改造を行っていなかった、というものです。

告発人によると、告発人は現地でステンレス板の改造が行われていないことを確認(現認)したとのことです。

取材に対し、運送会社は回答できないとし、組合の事務局は委託について「現時点では問題ないと考えている」とコメントしたと報じられています。

2. 告発の対象となった行為

告発が問題にしているのは、刑法246条の詐欺です。

詐欺は、(1)人をだます行為(欺罔)があり、(2)それによって相手がだまされ(錯誤)、(3)その錯誤に基づいて財産を交付する、という流れで成立します。

詐欺の構成要件を本件に当てはめると、次のようになります。

(1)実行していない改造を「完了した」とする報告書を提出したことが、人をだます行為

(2)組合がそれを信じてしまったのが、錯誤

(3)錯誤に基づき、組合が2,086万円を支払ったことが、財産の交付

ここで指摘しておきたい点は、詐欺とするならば、通常では考えられないレベルの「手口の単純さ」についてです。

荷台にステンレス板が張られているかどうかは、専門知識がなくても、荷台を覗けばすぐに分かります。

現に、告発人によると、告発人はステンレス板を張られていないことを現認しています。

つまり、まともに検査さえしていれば確実に気づけたはずの債務不履行であり、手の込んだ偽装とは呼べないレベルの単純さです。

むしろ、なぜこんな単純な嘘が通ってしまったのか?

それが本件の問題の核心と言わざるを得ません。

この問いに対する答えは、第5節で考察していきます。

3. 事務組合が改造費を負担することの問題点

実は本件、契約の建て付け自体が不自然です。

通常、一般廃棄物の収集運搬を業者に委託する場合、運搬に使うトラックは受託者(業者)の資産です。

その車両の維持費も改造費も、本来は業者が負担すべきコストであり、組合が支払う委託料の単価の中に、あらかじめ織り込んでおくのが筋です。

ところが本件では、その車両改造費だけが2,086万円という独立した費目として切り出され、組合が一括で負担する形になっています。

ここで素朴な疑問が二つ湧きます。

第1に、仮に改造が本当に行われていたとして、公金で張ったステンレス板は、いったい誰のものになるのでしょうか?

民法には「付合」という考え方があります(民法243条)。ある動産に別の動産がくっついて分離できなくなったとき、付け足された動産を含めて、主たる動産の所有者のものになる、というルールです。

トラックの荷台に張られたステンレス板は、当然トラックの一部となり、車両所有者である運送会社の資産になります。

つまり今回の改造費を一部事務組合が負担することで、公金を使って民間企業の資産を増やしてやった、という形になります。

第二に、なぜ委託料の単価に乗せず、わざわざ別建ての費目にしたのか?

年度ごとの委託料を低く見せたかった、という平準化の動機もあり得ますが、いずれにせよ、独立した費目にしたことで、改造の実施を確認する責任の所在が曖昧になり、不透明さの温床になったことは否めません。

4. ここまで事態が複雑化した経緯

なぜ、こんな歪な契約が生まれてしまったのか?

それを理解するには、この組合が置かれている状況を知る必要があります。

この組合のごみ焼却施設は、住民との協定で稼働期間を20年と定めていました。

そして2025年7月末、その稼働期限を迎えました。

協定がある以上、期限を過ぎてここで焼却を続けることはできません。

そこで組合は、施設を焼却施設としてではなく「積み替え保管施設」として住民の了解を得て使い、ごみを2トンの水密容器に積み替えたうえで、大型トラックで山口県萩市の処理業者まで運ぶ、という方式に切り替えました。

1日あたり50〜60トンのごみが、こうして県外へ運び出されています。

つまり、徳島から山口までの長距離搬送は、後継施設を期限までに用意できなかったことに伴う、事実上の緊急避難措置です。

組合は焼却炉を失い、毎日出続けるごみを止めることもできない。

そうした切迫した状況のなかで、2025年度に大急ぎでこしらえられたのが、今回の「改造費を委託者である一部事務組合が負担する」運搬委託契約だったと言えます。

現在の状況では、構成市町のうち板野町は組合からの脱退を決めており、残る阿波市と上板町のための新施設の建設も進められていますので、組合そのものが、再編の渦中ということです。

ここで一点補足しておきます。

片道約400km離れた日本海側の萩まで運ばずとも、より近い府県にも、相応の規模の一般廃棄物処分業者は存在していた可能性も十分考えられますので、本来なら、近隣に分散して委託することも可能だったはずです。

それでも萩が選ばれた背景には、一般廃棄物を受入れる自治体側のハードルの高さがありそうです。

家庭ごみは一般廃棄物であり、これを地方自治体から民間施設に処分委託する際には、その施設が一般廃棄物処理施設の設置許可を受けている必要があります。

さらに、他の地域のごみが大量に流れ込むことを、施設のある自治体が認めているか(区域外流入の問題)という課題もあります。

そして、上記をクリアできたとしても、その一般廃棄物処理施設に、1日50〜60トンを継続して引き受けられる空き容量があるか?

この三つを同時に満たす施設は、そう多くないと思われます。
※一般廃棄物を処分する民間施設自体は各地に存在していますが、流入側の自治体の同意(廃棄物処理法では通知)を受けられるかどうかが、現実には大きな課題となっています。

緊急に搬出先を確保しなければならなかった組合が、距離やコストを度外視してでも「引き受けてくれる先」に飛びついたと考えると、合理的とは言えない遠距離搬送にも一定の説明がつきます。

ただし、この場合、他の法律的な問題が発生します。

近隣の適法で安価な選択肢を、組合がきちんと探したのか?
見積りを取り、比較検討したうえで萩の業者を選んだのか?
あるいは、ろくに他の業者を探さないまま特定の遠方業者に決めたのか?

もしも、こうした努力をせずに、不透明な方法で委託先を選定したのであれば、それは単なる「緊急避難」では済まなくなる可能性がありますので、この点については、次節で改めて考察します。

萩の業者への搬送も、急ごしらえの委託契約も、形骸化した車両改造検査も、すべては「協定の期限までに後継施設を用意できなかった」という、一つの行政計画のつまずきから生じていると言えます。

5. 事務組合の法的な責任

告発人が「組合が確認しなければならなかったのではないか」と指摘していたように、本件のもう一つの焦点は、お金を払った組合の側にもあります。

検査義務の懈怠

地方自治法第234条の2第1項は、自治体が工事などの契約を結んだとき、その給付がきちんと完了したかを確認するため、職員に必要な監督・検査をさせなければならない、と定めています(この規定は一部事務組合にも準用されます)。

完了報告書を受け取って代金を払う前に、本当にステンレス板が張られているかどうかを検査するべき義務がありました。

地方自治体の支出は普通、担当課から検査、会計管理者、支出命令へと、複数の目を通る建て付けになっており、事務組合にも財務規則や検査規程があるはずです。

その全ての手続きを素通りして2,000万円超が支払われたのだとすれば、これは一人の職員のうっかりでは説明がつきません。

組織として検査が機能していなかった、と言わざるを得ません。

第2節で「なぜこんな単純な債務不履行が見過ごされたのか?」と書きました。

その答えは、嘘が巧妙だったからではなく、

  • 検査が機能していない相手だと見切られていたから
  • あるいは、検査が行われない運用が常態化していたから

という可能性があります。

委託先選定の合理性

一般廃棄物の処理を委託する場合、自治体には「必要かつ最少の限度をこえて支出してはならない」という最少経費の原則があります(地方自治法第2条第14項、地方財政法第4条第1項)。

近隣に適法で安価な選択肢があったのに、合理的な理由もなく割高な遠方委託を選んだのであれば、公金の使い方として違法の評価を受けかねません。

この点について問題が無かったと組合側が主張する場合は、

  • 近隣業者への見積照会の記録
  • 委託先を萩に決めた選定理由書や起案文書
  • 競争を経ず随意契約にしたのなら、その根拠は地方自治法施行令第167条の2のどの号によったのか

等の根拠を組合自身が示す必要があります。

その証明がすべてできないのであれば、組合は法律上の正しい手順とやり方で委託契約をしたと主張できないことになります。

背任、そして地方自治法上の責任追及

もし職員が、改造の不実施を知りながら、あるいは特定業者に利益を誘導する意図をもって支出に関与していたとすれば、評価はさらに重くなります。

自己や第三者の利益を図り、本人(組合)に損害を与えたとして、背任(刑法第247条)が成立する可能性も考えられます。

そして、これは公金の支出ですから、刑事の話とは別に、住民の側から責任を追及する道があります。

住民監査請求(地方自治法第242条)と、それに続く住民訴訟(同242条の2)です。

とりわけ住民訴訟には、組合に対して「損害を与えた者へ賠償を請求せよ」と義務付けを求める類型(同条第1項第四号)があり、これを使えば、組合自身に、不正に関わった業者や職員への損害賠償請求を迫ることができます。

組合事務局の「現時点では問題ないと考えている」というコメントを考えてみると、確認義務の不在を認めた瞬間に、矛先が自分たちに向かってくるため、決して認められない―そういう袋小路に陥っているのかもしれません。

6. もしも運送業者が詐欺罪で有罪になったら―「ごみが止まる」という結末

最後に、仮にこの詐欺の疑いが裁判で立証され、有罪となった場合に何が起きるかを考えてみます。

「委託先業者の許可を取り消せばいい」とはいかない

直感的には「悪いことをした業者の許可を取り消せばいい」と思いたくなります。

しかし、この組合の運搬業務は、許可を受けた業者が行っているのではなく、市町村(組合)から直接委託を受けて行っているものです。

許可事業ではないので、取り消すべき許可がそもそも存在しない。
※現実には、「許可業者」が「委託を受ける」ケースも多数ありますが、基本的には委託を受ける場合は、許可業者である必要はありません。

「許可取消」というカードは、今回の一般廃棄物運搬委託契約には使えないのです。

では何ができるか?

委託である以上、契約を解除すべきかどうかになります。

委託元である組合を欺いて公金をだまし取ったとなれば、それは契約の土台である信頼関係を壊す行為ですから、組合がこの契約を解除する、という道は考えられます。

ただし、これは「解除できる」という話であって、「解除しなければならない」という話ではありません。

組合は、契約解除しようと思えばできるが、問題は、実際には契約解除ができない事情の方にあります。

そして、ごみが止まる

搬出契約を解除できない理由は、この組合には、もう焼却炉がないからです。

毎日のごみは、運送会社S社のトラックが萩まで運ぶことで、かろうじて処理が回っています。

委託契約を解除すれば、運搬の担い手が消えます。

運搬が止まれば、即日ごみは行き場を失うことになります。

焼却炉という処分先がない以上、一般廃棄物処理そのものが停止することになります。

組合は詐欺の被害者の面もありますので、法律上は、信頼関係の破壊を理由に、この契約を解除することが可能です。

しかし、実際には、組合が契約解除に踏み切ることは非常に困難です。

契約解除をした途端、自分たちのごみ処理がストップするからです。

組合事務局が「現時点では問題ない」と言わざるを得なかった本当の理由は、法的な強気ではなく、この運用上のジレンマにあったのではないか、と思われます。

実際には張られなかったステンレス板は、たんなる水増し請求の物証ではありません。

それは、決断を先送りし続けた組織が、先送りという選択肢をついに使い果たした瞬間に、足元に開いた底なしの穴なのかもしれません。

先送りという部分最適が行き着く先は、「頭隠して尻隠さず」という、他人から見ると甚だ滑稽な現実逃避しかないという現実を、我々は噛みしめなければなりません。

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