京都市伏見区の住宅地に3階建てマンションを超える高さの「産廃の山」が出現し、近隣住民が粉塵や悪臭で迷惑を被っているという事案が現在進行中です。
京都市は行為者に是正を求め、行政代執行の可能性にも言及している状況ですが、廃棄物処理法に基づく行政処分の仕組みを整理する上での、生きた実例となっています。
住宅地で10メートル以上の高さの廃棄物が積み上がっている様子は、非常に危険と言わざるを得ません。
崩落すれば人的被害につながりかねず、行政としては早急な対処が求められます。
一方で、「危険だから行政がすぐに撤去すればよい」という単純な話でもありません。
廃棄物処理法は、誰に・どの順番で・何を命じるかを段階的に組み立てており、その出発点はあくまで原因をつくった者(行為者)への責任追及にあるからです。
10メートル超の廃棄物混じりの山の何が「違法」なのか
重要な点は、堆積している状態が「保管」なのか「不法投棄」なのかです。
これによって適用される条文が変わります。
屋外で廃棄物を保管する場合には、囲い・高さ・勾配などについての産業廃棄物保管基準が定められています(廃棄物処理法施行規則第8条)。
10メートルを超える山は、この基準を大幅に逸脱していることになります。
他方、保管の体裁すらなく事実上投棄されているのであれば、法律に則った対処をより迅速に行う必要があります。
いずれにせよ、降雨や強風で、近隣家屋や道路に廃棄物が散乱する、といった事態は「生活環境の保全上の支障」そのものであり、行政処分(命令)の対象になります。
行政処分は段階を踏む必要がある
廃棄物処理法は、軽いものから重いものまで複数の行政処分を用意しています。
実務では、まず立入検査と行政指導で是正を促し、改善されなければ改善命令や措置命令といった命令的処分へ、最終的に行政代執行へと進みます。
下図はその全体像です。
図:行政処分の標準的な流れ(立入検査・行政指導 → 改善命令/措置命令 → 代執行)
本件は支障が現実化し無許可受託も疑われるため、措置命令〜代執行が現実的な着地点
ただし、すでに支障が現実化し、かつ無許可受託も疑われる事案では、改善命令ではなく措置命令~代執行が現実的な着地点になります。
実務の入口:立入検査と行政指導
行政は不適正処理事案を認知した場合でも、いきなり不利益処分を打つわけではありません。
まず報告徴収や立入検査(第18条・第19条)で実態を把握し、行政指導で自主的な是正を促すのが通例です。
この段階で問題が解決するのであれば、行政と行為者双方の費用負担がもっとも安価となり、比較的早期に是正ができることになるため、「まずは行政指導から始める」という対応が基本となります。
改善命令(第19条の3)
改善命令(第19条の3)とは、産業廃棄物処理基準や保管基準に適合しない処理が行われたとき、処理方法の変更その他必要な改善を、期限を定めて命じる処分です。
保管量の超過、囲い・掲示の不備、処理基準違反の是正など、日常的に発出される標準的な命令で、行政処分のなかでも件数の多いものです。
もっとも本件の場合は、現状で既に崩落の危険という形で生活環境保全上の支障が現実化しつつあり、しかも無許可受託まで疑われるため、無許可営業者に「処理方法を変更せよ」と命じても是正にはならず(そもそも業として行ってはならない)、改善命令では対処できないことがほとんどです。
こうしたケースでは、行政は廃棄物の撤去を直接命じる措置命令へと進みます。
措置命令(第19条の5・第19条の6)──廃棄物の撤去を命じる命令
生活環境の保全上の支障が現に生じている、または生じるおそれがあるとき、行政は支障の除去等の措置(=撤去・処理)を命じることができます。
注意が必要な点は、対象(条文上は「処分者等」)が不適正処分を行った行為者本人にとどまらないことです。
第19条の5第1項は各号で対象者を列挙しており、委託基準に違反する委託(無許可業者への委託など)によって処分が行われた場合の「当該委託をした者」、すなわち排出事業者も、この時点で直接対象に含まれます。
第19条の6は、これに加えて適正に委託していた排出事業者(委託基準違反が無い場合でも命令の対象になる)にまで対象を広げる規定です。
措置命令違反の罰則:措置命令に従わない場合、5年以下の拘禁刑若しくは1千万円以下の罰金、又はこれらの併科(第25条第1項第五号)。
命令は単なる「お願い」ではなく、刑事罰の裏づけを持ちます。
行政代執行(第19条の8)
行為者が命令に従わない、十分に措置しない、期限内に終わる見込みがない――こうした場合に、行政が自ら支障の除去等の措置を講じることができます。
支障除去に要した費用は行為者に負担させることができます。
「いきなり代執行」は、できるのか
結論からいえば、通常の手順(行政指導や措置命令)を踏まずに直ちに代執行へ踏み切ることも、法的には不可能ではありません。
第19条の8第1項は、代執行が可能な場面として、おおむね次の3つを定めています。
- 措置命令を受けた者が措置を講じない/講じても不十分/期限内に終わる見込みがないとき
- 措置命令を命ずべき者を、過失なく確知できないとき(所在不明・倒産等)
- 緊急に支障の除去等を行う必要があり、命令を出すいとまがないとき
山が崩れて廃棄物が道路に散乱した、崩落が切迫している、といった切迫事態は、まさに3つ目の緊急代執行(第19条の8第1項第3号)が想定する場面です。
京都市のケースで「行政代執行の可能性」に言及されるのは、この枠組みが念頭にあると考えられます。
それでも「まず行為者に撤去を求める」ことが不可欠な理由
代執行という強力な手段があるのなら、危険なものは行政がさっさと片付ければよい――と感じた方がいたかもしれません。
しかし手続き上は、まず行為者に撤去を求めることが不可欠です。理由は大きく分けると3つあります。
代執行は「最後の手段」である
第一に、廃棄物処理法は行為者負担(汚染者負担)の原則に立っています。原因をつくった者が自ら除去するのが筋であり、行政が肩代わりするのは例外です。
第二に、代執行の費用は本来行為者から徴収できますが、行為者が無資力・所在不明であれば回収は事実上困難になり、最終的に公費=税金が投入されることになります。
第三に、命令を経ずに行政が動けば、後に費用負担や責任の所在をめぐって争いになりやすい。
だからこそ、まず措置命令で行為者に責任を果たさせる手続が重要なのです。
崩落が切迫しているなら緊急代執行で人命を守ることが最優先ですが、それと並行して(あるいはその前後で)行為者に対する措置命令と費用の追及を組み立てておかなければ、不適正処理の後始末費用の全額を公金で負担することになってしまいます。
放置業者は「排出事業者」か、それとも「無許可受託」か
報道の時点では、山を放置している業者が自社の廃棄物を積んだ排出事業者なのか、それとも他人の廃棄物を受け入れていた無許可業者なのかは明らかになっていません。
そのため、以下は、筆者自身が行政官時代に体験した不適正処理事案と大規模堆積事案の傾向を踏まえた一般論となります。
現実的には、高さ10メートルを超えるような大量の廃棄物の堆積は、一事業者が自らの事業活動で出した廃棄物の規模を大きく超えていますので、複数の事業者から反復継続して廃棄物を受け入れていた――すなわち無許可受託(無許可営業)の可能性が高いと見るのが自然です。
もしそうであれば、法的評価は一段重くなります。
無許可営業:都道府県知事(政令市長)の許可を受けずに産業廃棄物の処分等を業として行えば、無許可営業として5年以下の拘禁刑若しくは1千万円以下の罰金、又はこれらの併科(第14条第1項・第6項違反、第25条第1項第一号)。法人には両罰規定により3億円以下の罰金が科され得ます(第32条第一号)。
さらに見落とせないのが、廃棄物を出した側の責任です。無許可業者に処分を委託すること自体が委託先の制限(第12条第5項)に違反し、委託した排出事業者も5年以下の拘禁刑若しくは1千万円以下の罰金、又は併科の対象となります(第25条第1項第六号)。
「委託基準を知らずに安い業者へ出していた」では済まされません。無許可業者に廃棄物処理をさせていた排出事業者も、芋づる式に立件される可能性があります。
排出事業者にとっての教訓
措置命令が排出事業者に及ぶルートは、2段階で考えると整理しやすくなります。
第一に、無許可業者へ委託した――つまり委託基準に違反した排出事業者は、第19条の5の「処分者等」として直ちに措置命令の対象になります。具体的には、「無許可業者への委託」や「法定記載事項を記載していない委託契約書の運用」等の委託基準違反をしていた排出事業者が命令の対象になります。
第二に、委託自体は適正だった排出事業者でも、著しく低廉な処理料金で委託していた、不適正処理を知り得たといった事情があれば、第19条の6では、措置命令の対象となる場合があります。
第19条の6の措置命令の場合は、契約書やマニフェストが形式的に整っていたとしても責任を免れることはできず、行為者が無資力で支障除去を期待できない場合には、排出事業者も措置命令の対象者として、行政代執行費用の負担を求められる可能性があります。
行為者が無資力で代執行費用を回収できないとき、排出事業者に費用負担が求められることになります。
「委託先が現地でどう処理・保管しているか」を確認することは、コンプライアンスの建前ではなく、自社が”産廃の山”の当事者にされないための実質的な防衛策です。
委託先の許可の有無・事業の範囲・現地の保管状況を、改めて確認するきっかけにしていただければと思います。
まとめ
- 10メートルの「産廃の山」は、保管基準違反・生活環境保全上の支障として行政処分の対象になる。
- 標準的な流れは「立入検査・行政指導 → 改善命令/措置命令 → 代執行」。改善命令(第19条の3)は日常的に用いられる命令だが、本件のように支障が現実化し無許可受託も疑われる事案では、措置命令(第19条の5・6)~代執行(第19条の8)が着地点となる。
- 崩落の切迫など緊急時は、命令を経ずに代執行できる(第19条の8第1項第三号)。
- ただし代執行は最後の手段。行為者負担の原則と費用回収の観点から、まず行為者への撤去命令が不可欠。
- 堆積量から見て無許可受託(無許可営業)の可能性が高く、その場合は放置業者に無許可営業罪(第25条第1項第一号)、廃棄物を出した排出事業者にも委託先制限違反(第25条第1項第六号)が及び得る。
- 措置命令は行為者だけでなく排出事業者にも及ぶ。無許可委託など委託基準に違反した排出事業者は第19条の5で直接対象、適正に委託していた場合でも料金不払い等の事情があれば第19条の6で対象となる。
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