京都市が”伏見区深草の産廃山”に措置命令─「改善命令」ではなく「措置命令」だった理由の考察

高さ10メートルを超える”京都市伏見区深草の産廃の山”をめぐり、京都市が2026年7月28日、廃棄物処理法第19条の5に基づく措置命令を発令しました。

当ブログ 2026年7月8日付記事 「住宅地の隣で産業廃棄物の山が造成されたらどうなる?─措置命令と行政代執行の関係性」では、「まず行為者に撤去を求めることが不可欠」と指摘したところですが、その一手が現実に打たれた形です。

また、今回の京都市の措置命令には、行政代執行までを見据えた明確な意図が読み取れます。

京都市が出した命令の中身

2026年7月28日付 京都市発表 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく行政処分

この度、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第19条の5の規定に基づき、以下のとおり行政処分を行いました。

1~2 (略)

3 行政処分の内容

次の内容の措置命令

上記1の被処分者が産業廃棄物の保管場所として使用する土地(伏見区深草鞍ケ谷12番ほか)に保管している産業廃棄物について、下記4に記載の生活環境の保全上の支障が生じるおそれを除去するため、当該産業廃棄物の保管の高さ及び当該保管場所の囲いが法に定める産業廃棄物処理基準に適合するものとなるよう措置すること。

4 行政処分の理由

上記1の被処分者による産業廃棄物の保管が、法に定める産業廃棄物処理基準に違反しており、当該産業廃棄物が崩落し、保管場所から流出することによる生活環境の保全上の支障が生じるおそれがあるため。

5 履行期限

令和8年8月31日

措置命令の要点は次のとおりです。

命令は令和8年7月27日付で、翌28日に公表されました。

被処分者は、その保管場所を使用していた事業者(法人とその代表者)です。

ここで注目いただきたい点は、命令の根拠が第19条の3の「改善命令」ではなく、第19条の5の「措置命令」だということです。

改善命令と措置命令は、どこが違うのか

両者の違いは、古くは昭和52年11月5日付の環産59号通知(問21)で、時間軸によって整理されています。

すなわち、

措置命令はすでに生じた(あるいは生じるおそれのある)支障を除去することを目的とする「過去・現在」への対処であり、

改善命令は事業者に基準へ適合した処理を将来にわたって行わせることを目的とする「将来」に向けた是正である、

という切り分けです。

この通知については、当ブログ 2010年9月9日付記事 「措置命令と改善命令の違い(昭和52年11月5日付環産59号通知より抜粋)」で解説したところです。

観点改善命令(第19条の3)措置命令(第19条の5)
目的・時間軸将来に向けた基準への適合すでに生じた/生じるおそれのある支障の除去
発動要件処理基準・保管基準への不適合基準への不適合+生活環境保全上の支障(のおそれ)=具体的危険
典型例保管量の超過、囲い・掲示の不備の是正崩落・流出・汚染のおそれの除去
違反時の罰則3年以下の拘禁刑/300万円以下の罰金/併科(第26条)5年以下の拘禁刑/1千万円以下の罰金/併科(第25条第1第五号)
行政代執行の裏付けなしあり(第19条の8)

実務上の分岐点は、生活環境の保全上の支障という「具体的な危険」が発生している(またはそのおそれがある)かどうかです。

基準違反があるだけなら改善命令で足りますが、崩落・流出のおそれという具体的危険が加われば、措置命令で対処すべき状況に入ります。

本件で京都市が理由に挙げたのは、まさに「崩落・流出による生活環境保全上の支障が生じるおそれ」でした。

なぜ「改善命令」ではなく「措置命令」だったのか──代執行の裏付け

最大の違いは、上記の比較表の最終行にある「行政代執行の裏付け」です。

産業廃棄物の支障除去に関する代執行は、第19条の5・第19条の6の措置命令にひもづく形で第19条の8に定められています。
※補足 第19条の10第2項に基づく措置命令の場合は、第19条の8の行政代執行の対象となりません。

第19条の3の改善命令には、行政代執行の裏付けがありません

措置命令を選ぶ=代執行という最終手段を確保、あるいは覚悟が決まる

京都市が改善命令だけを出していた場合、業者が従わなくても――罰則(告発)に訴えることはできても――行政が自ら山を片付ける法的ルートがありません。

措置命令を選んだということは、業者が期限までに是正しないときに、行政が自ら是正し、その費用を業者に負担させる「代執行」という道を選択した、ということを意味します。

京都市が措置命令を選択した背景には、「産業廃棄物の崩落・流出」という、生活環境保全上の具体的な支障(となるおそれも含む)があるわけですから、命令対象者自身がそれを履行しない場合は、行政代執行に踏み切らざるを得ません。

ここまで事態が悪化した過程の問題は別途議論する必要がありますが、現状で取り得る選択肢としては、第19条の5に基づく措置命令が最善だったと言えます。

まず行為者に責任を果たさせる(行為者負担の原則)という筋を通しつつ、最終手段への布石を同時に打った、という構図になります。

行政代執行が避けられない可能性が高い理由

そのうえで、本件は京都市による代執行に至る可能性が非常に高いと考えられます。

  • 履行期限は令和8年8月31日。命令から約1か月で、高さ10メートルを超える山を基準適合の高さまで下げるのは、処理能力・費用の両面で容易ではない。
  • ここまでの規模に堆積させた事業者に、自力で適正処理を完遂する資力と意思が備わっているかは、不透明。
  • 崩落・流出のおそれという公共の安全にかかわる事情がある以上、行政は不履行を長く放置できない。
  • 期限までに是正がなされなければ、第19条の8第1項第一号(命令を受けた者が措置を講じない等)により代執行が可能になります。崩落が切迫すれば、命令を経ない緊急代執行(同項第三号)もあり得ます。

なお、この種の事案では、法人だけではなく、法人の代表者や役員個人も措置命令の対象となるのが通例です。

法人が解散・無資力に陥っても個人という追及先を残せるためで、後日の費用回収まで見据えた備えでもあります。

まとめ

  • 京都市は、第19条の3の改善命令ではなく、第19条の5の措置命令を選んだ。
  • 改善命令と措置命令の分岐点は「具体的危険(生活環境保全上の支障のおそれ)の有無」。本件は崩落・流出のおそれがこれに当たる。
  • 決定的な違いは行政代執行の裏付け。措置命令(第19条の5・6)には第19条の8の代執行があるが、改善命令(第19条の3)にはない。
  • 措置命令の選択は、行政代執行を見据えた布石であり、履行期限(8月31日)までに是正されなければ、代執行へ進む可能性が高い。

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