「免罪符」とは
本来、カトリック教会において、罪に伴う償いの一部が免除されることを示す証書を指す言葉です。
中世末期には免罪符の販売が広まり、宗教改革のきっかけの一つにもなりました。
現在では、何らかの行為や手続きを済ませたことを理由に、その後の責任や批判を免れようとする場合にも、「免罪符」という言葉が比喩的に使われています。
「処理状況確認の外注」は免罪符になり得る?
産業廃棄物の排出事業者には、委託した産業廃棄物の処理状況を確認するなどして、適正な処理が行われるために必要な措置を講ずる努力義務が課されています(廃棄物処理法第12条第7項)。
「処理状況確認」とは廃棄物処理法上の用語であり、実務では「現地確認」と呼ばれています。
処理状況確認方法は、具体的には、処理業者の施設を訪問し、廃棄物の保管状況や処理工程を実際に確認する一連の手順を指します。
そのため、遠隔地に処理施設がある場合や、多数の処理業者に処理を委託している場合には、排出事業者の担当者がすべての施設を訪問することはかなりの負担になります。
そこで、「処理状況確認を第三者に外注したら良いのでは?」という妙案(?)を思いついた方が多いと思います。
結論から言えば、第三者に確認作業を委託すること自体は、廃棄物処理法で禁止されていません。
しかし、第三者に委託しただけでは、排出事業者責任を果たしたことにはならないことに注意が必要です。
処理状況確認を第三者に外注したとしても、それは排出事業者にとっての「免罪符」にはならないということです。
以下、その理由を解説していきます。
第三者への委託自体は法律上禁止されていない
廃棄物処理法第12条第7項は、排出事業者に対し、産業廃棄物の処理状況を確認することなどによって、適正処理に必要な措置を講ずるよう努めることを求めています。
しかし、排出事業者の役員や従業員が、自ら処理施設に赴かなければならないとは規定していません。
そのため、外部の専門家や調査会社に現地確認を依頼すること自体は、廃棄物処理法でも違法とはされていません。
ただし、違法でないからと言って、その外注が望ましいかどうかは別途議論が必要となります。
重要なことは、委託できるかどうかではなく、「委託することで排出事業者が何を得て、何を失うのか」という点です。
第三者への委託で得られるもの
第三者に処理状況確認を委託する最大の利点は、排出事業者の担当者が現地に赴く手間を省けることです。
遠隔地の施設を訪問する場合には、移動時間や交通費、宿泊費などの負担が生じます。
第三者に委託すれば、こうした負担を軽減できる場合があります。
また、廃棄物処理に詳しい専門家に確認を依頼すれば、専門的な知識に基づく調査結果を得られる可能性もあります。
しかしながら、処理状況確認自体は、通常の「納品検査」と同様に、廃棄物処理法の正確な知識が不可欠とされる手続きではありません。
もちろん、「産業廃棄物の種類」等の廃棄物処理法に関する基本的な知識は不可欠となりますが、数か所の事業所を訪問すると、大部分の人はそれぞれの事業所間の差異に気づくようになり、「この業者は前に見た業者の事業場よりも、産業廃棄物の保管が雑だな」と、その違和感を言語化できるようになるはずです。
また、社内で「現地確認マニュアル」等を一度整備しておけば、初心者でもある程度はそのマニュアルに則った確認作業を進めることが可能になりますし、場合によっては、意欲的な担当者が、内容をアップデートしていくことも可能です。
次は、処理状況確認の全面外注によって失われるものに目を向けます。
第三者への全面外注で失われるもの
処理施設を訪問する意義は、施設が稼働しているかどうかを確認することだけではありません。
実際に施設を訪問すれば、廃棄物の保管状況、処理設備の稼働状況、作業環境などを自分の目で確認できます。
また、処理業者の担当者から処理工程の説明を受け、疑問点をその場で質問することもできます。
こうした経験を積み重ねることによって、排出事業者の担当者自身が、廃棄物処理に関する知識や判断力を身に付けられます。
一方、第三者に全面委託した場合、排出事業者が受け取ることができるものは、基本的には第三者が作成した報告書だけです。
報告書に記載された事項については把握できても、現場の状況を直接理解する機会は失われます。
さらに、確認結果の質は、実際に調査を行った第三者の知識や経験、そして排出事業者や契約への誠実性に左右されます。
重要な問題が見落とされていたとしても、現場を見ていない排出事業者が、その見落としに気付くことはほぼありません。
処理業者との直接的な意思疎通の機会が失われることも、不利益の一つです。
処理状況確認は、単なる点検作業ではなく、排出事業者と処理業者が相互理解を深める機会でもあるからです。
第三者への委託は免罪符にならない
そして、最も重要なのは、第三者に確認作業を委託しても、排出事業者責任までその第三者に移転するわけではないという点です。
説明のために極端な事例を例として挙げますが、
第三者から提出された報告書に、「許可品目外の産業廃棄物の受入の形跡」が記載されていたとします。
その報告を受けた排出事業者が何の対応も取らなかった場合、委託先業者が「無許可変更業者」として行政処分の対象となり、排出事業者が委託基準の一部である処理状況確認を適切に行っていたかが問われる可能性があります。
「第三者に処理状況確認を委託していたから」という理由で、無許可変更業者である点を見逃した過失が免責されるでしょうか?
あるいは、外注先の第三者が重大な問題を見落とし、排出事業者には「委託先として問題なし」と報告していた場合でも、外注していたという理由で、排出事業者は当然に免責されるでしょうか?
このように、第三者からの確認済みの報告書を入手するだけで、排出事業者責任を果たしたことになる、という捉え方には大きなリスクがあります。
処理状況確認は、確認したという実績を作るためのものではなく、適正処理を確保するためのものだからです。
どうしても自社単独では不安な場合は
では、どうしても排出事業者だけの単独訪問では不安という場合は、どうしたら良いか?
価値観を共有するグループ企業間で、委託先処理業者に関する情報共有を進め、知識と確認ノウハウのアップデートを図る方法が最善と考えていますが、それにはかなりの時間と手間が掛かるのも事実です。
ゆくゆくはグループ企業間、または各支店間のネットワーク形成を最終目標としつつ、
そこに至るまでの繋ぎ、あるいはノウハウの初期形成を円滑に進めるための手段として、処理状況確認の際に、専門家に同行してもらう方法もあります。
そうすることで、担当者自身が現場を確認しながら、専門的な助言を受けることが可能となります。
例えば、廃棄物の保管状況や処理工程について疑問が生じた場合、その場で同行した専門家にすぐ確認できます。
また、処理業者との質疑応答に専門家が加わることで、確認すべき事項をより具体的に整理できるでしょう。
この方法であれば、専門知識を活用しながら、排出事業者自身の確認能力を高めることができます。
もちろん、専門家の同行には費用がかかりますし、担当者が現地へ赴く手間も省けません。
しかし、処理状況確認を単なる事務作業ではなく、担当者の知識向上や処理業者との関係構築の機会と捉えるならば、その負担にも十分な意味があります。
※ちなみに、当事務所でも、もちろん有料にはなりますが、全国どこでも地域を問わずに、処理状況確認への同行依頼を承っております。関心がある方は別途お問い合わせくださいませ。
専門家は、排出事業者の責任を肩代わりする存在ではありません。
排出事業者が自ら適切な判断を行えるように支援することこそ、専門家を活用する本来の意義だと考えます。
処理状況確認の目的を見失わないこと
第三者への処理状況確認の委託は、法律上禁止されているわけではありません。
しかし、委託できることと、委託することが望ましいかどうかは別問題です。
何より、第三者に確認作業を委託しても、排出事業者責任が軽減されるわけではありません。
専門的な知見が必要であれば、第三者にすべてを任せるのではなく、専門家の同行によって確認の質を高める方が有益だと考えます。
処理状況確認で重要なことは、
「現場に行ったかどうか」という記録を残すことよりも、
「何を確認して、どのような経緯で委託先として適切という判断を下したか」という証拠を社内に残すことです。
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