産業廃棄物を横流しされると排出事業者の違反になる?

久々に「この記事はひどい!」と言わざるを得ないネット記事に接しましたので、ツッコミを入れつつ、排出事業者責任とその果たし方について解説をしたいと思います。

2025年11月27日付 弁護士JPニュース 「「松屋のエプロン入荷致しました」リサイクルショップに制服“大量流出”で物議 「下手すりゃ行政指導」指摘も…本部「ただいま調査中」

企業のロゴ入りのエプロンが中古市場に出回ることに対し、SNSでは「どこで流れたのか」「誰でも偽店員になれてしまう。防犯的にありえない」と、企業の危機管理体制に対する疑問の声が上がっている。

こういうのを「コタツ記事」と言うのでしょう。

真偽が定かではない、個人のSNSでの発言を世論であるかのように引用し、記事対象企業の印象を貶めています。

私個人は、この手のSNS発言の無批判な引用は大嫌いです。

まず、「偽店員」ってなんなのでしょうか?

エプロンだけでは「松屋店内」で好き勝手に働くことは不可能ですし、松屋店外で偽店員としてできる行動をまったく想像できません。

ヤマト運輸や佐川急便の制服であれば、個人宅に侵入し、ドアを開けさせる可能性がありますので、「防犯的にありえない」も理解できますが、
松屋のエプロンを着た人間が個人宅を訪れたところで、警察に通報されるのが関の山ではないでしょうか?

次に、「どこで流れたのか」

これは、「松屋(内の人間)が流した」か「松屋の委託先処理業者が流した」かの二択です。

個人的には、どこかの店舗で働いていたアルバイト店員がどさくさに紛れてエプロンを失敬し、そのまま古着屋に転売した、という線を疑っています。

エプロンが本物であれば「行政指導からの事業者名公表もある」と指摘する声もあった。

これも意味不明な文章です。

「行政指導」の次に、「事業者名公表」という最終手段に一足飛びに踏み切る行政はおよそ存在しないものと思います。

また、そもそも「どういう理由で(松屋に対し?)行政指導を行うのか?」という根本的な点がまったく理解できません。

「行政指導=行政の強権発動手段?」と、漢字の印象だけで言葉の意味を推測するというニュータイプの日本語ユーザーが増えつつあるのかもしれません。

「日本語を話す日本人」であったとしても日本語の会話が成り立たないことが多い、昨今のSNSの状況を考えると、こうしたニュータイプ日本語ユーザーの増加は、少子高齢化の進展以上に恐れた方が良い気がします。

今回、産業廃棄物であるはずのエプロンがリサイクルショップで販売されていたということは、松屋フーズおよび松屋フーズが委託した運搬・処分業者が適正な処理義務を怠った、またはマニフェスト通りの最終処分がなされなかった可能性がある。

これが事実であれば、「廃棄物処理法に違反した」として松屋フーズに対し行政指導・改善命令が出されることが考えられる。

現時点では、誰が横流ししたのかが明らかになっていませんので、
あくまでも仮に、松屋として産業廃棄物処分委託したはずのエプロンが、委託先産業廃棄物処理業者によって横流しされた場合、松屋が廃棄物処理法違反をしたわけではなく、松屋の委託先処理業者が「産業廃棄物管理票の虚偽記載」をしただけとなります。

そのため、このケースでは、松屋は単なる被害者であり、行政指導や改善命令の対象となることは通常有り得ません。
※無許可業者や、「廃プラスチック類」の処分許可を持っていない業者に委託していたならば、委託基準違反として刑事罰の対象になります。

排出事業者が行政指導や改善命令の対象となる場合は、委託した産業廃棄物が不法投棄等の不適正処理された場合であり、「転売された」が即「廃棄物処理法違反」に直結するわけではありません。

環境省は、廃棄物処理における企業(排出事業者)責任についてサイト上で〈不適正な処理を行う廃棄物処理業者に委託していたことが明らかになれば、排出事業者も廃棄物処理法の措置命令の対象になる可能性があるとともに、社名等が公表され、コンプライアンスを十分に果たしていない事業者として社会的な評価を落としかねないリスクを十分に認識する必要があります〉と説明している。

弁護士JPニュースが触れている環境省サイトは、「排出事業者責任の徹底について」と思われますが、弁護士(?)らしからぬ、前提条件をすっ飛ばし、結論だけに飛びついた間違った引用です。

上記の環境省サイトは、2017年に発覚した「食品廃棄物の不正転売事件」に関しての注意喚起であり、この事件では、排出事業者である飲食店フランチャイザーや小売事業者が、委託先処理業者の処理状況をろくに確認せず、本来であればその業者に委託してはならない廃棄物を委託していたことが根底にあります。

「松屋のエプロン転売」とは、法律違反となる部分が根本的に異なっています。

企業に関係した不始末であれば、なんでもかんでもその企業の責任として追及するという風潮は、そろそろ改めた方が良いと思います。

何が問題で、誰が悪かったかを冷静に切り分け、指弾すべき相手を正しく指弾することが必要ですが、メディアが率先してその責務を放棄している状況を見ていると、中世の「魔女狩り」を想起してしまいます。

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